
長野の田舎に別荘兼民泊用の物件を購入してからおおよそ半年が経つ。この半年をかけて民泊の開業準備を進めてきた。ようやく開業の目処が立ってきたので、これまでにやったことを大まかな記録に残しておこうと思う。
前提として、現在民泊を開業するには、住宅宿泊事業法、または旅館業法(簡易宿所)のいずれかの法律に則って行う必要がある。今回は旅館業法に則って行う場合の流れについて示す。
民泊を見越した物件選定と購入
民泊は法律に加えて自治体の条例によって開業できるエリアが厳しく制限されている場合が多い。そのため購入する物件の土地の利用区分(用途地域)が重要なパラメタになる。今回は土地の利用区分「なし」の物件を購入することで、どの法律でも開業することが可能となった。

次に物件自体の魅力である。近くに強力な観光地などがない場合、物件自体の魅力が集客に大きな決め手となる。今回選定したエリアは、特段有名な観光地の近くと言うわけではなかった一方で、築浅のデザイナーズ物件という点、特にベッドルームごとに独立したシャワー施設が付いている点などが購入の決め手となった。
物件の購入に際しては、ローンを含む資金繰りもポイントとなってくる。この辺は有識者に相談していただきたい。

近隣への事業の説明
住宅宿泊事業法では近隣への説明フォーマットが定義され、自治会長ならびに一定の距離内の近隣住民への説明結果を報告することが求められる(条例によるかもしれない)。一方で、今回適用される旅館業法では、近隣説明は必須ではない。必須ではないのだが、①今回購入した物件は公道の草刈りなど周辺のインフラを自治会で管理していたこと、②一通りご近所挨拶をした際、民泊に対し明確に反対の意見を述べる方(以降「当該住民」という)がいたことなどから、きちんと説明することにした。
具体的には、我々はきちんと法に則って民泊を運営する事業者であり、庭でバーベキューをするなど騒がしい行為はハウスルールで禁止するし、ゴミは事業ゴミとして回収するので、とにかくご迷惑をお掛けしませんよ、という説明を(LLMに手伝ってもらいながら)書面に起こし、自治会長と当該住民に対し説明した。当該住民は、最近の違法民泊のニュースに触れてそもそも民泊に対して良い印象を持っていなかったが、真正面から説明したことでご納得いただいた。この住民への説明が、一連の民泊準備の中で最も気を遣った点だった。

↑住民説明書面からの抜粋。必要な方はご連絡いただけたら書面ごとシェアします。
また自治会には自治会費を通常の住民より多く支払うことで、草刈りなどのイベント参加を免除させてもらう整理とした。この自治体では、会費を①定住者、②別荘利用など非定住者、③事業者、という3区分に分けており、話が早かった。
開業届フォーマットの取寄せ
簡易宿所での開業は、手続き的には住宅宿泊事業法よりも簡易に行える。それでも素人の私には、それなりの工数を投じる必要がある事務手続きが発生した。
最終的に提出する書類は旅館業法の開業届である。旅館業法は厚生労働省の所掌であり、実際に許可を出すのは地域の保健所である場合が多いと思う。しかし保健所のホームページを見ても簡易宿舎の開業届について網羅的に触れられているものはなかった。電話で問い合わせたところ、個別に問い合わせた人に対して申請書式を電子データの形で送ってもらえるとのこと。まずは開業届の全体像を把握することがスタート地点となった。
消防法令適合通知書の取得
開業届の一部をなす文書として、消防法令適合通知書がある。これは、当該物件が消防法令と照らし合わせて事業用途として開業するにふさわしい物件であると認められる場合に消防署から発行される書面である。まずはこれの取得を目指した。
具体的には、地域の火災予防条例、並びに消防署のホームページに掲載されている申請フォームを読んだ上で、当該物件の図面を持って消防署を訪れ、開業のために必要な設備要件を確認することから始まった。相談の結果、①避難誘導灯の設置、②業務用の火災報知器、③業務用の消火器、④薪ストーブやカーテンがそれぞれ火災予防の要件を満たしていることの確認、の大きく4点が必要な作業となった。

↑誘導灯

↑火災報知器
これら設備設置には、消防法の対応に慣れた電気屋さんに作業をお願いする必要がある。不慣れな土地で信頼のおける電気屋さんを探すのが難しかったが、当該物件を建てた工務店の委託先である電気屋さんを見つけることができ書類作業も含めて電気屋さんにお願いすることができた。
設備設置に加えて、消防法令適合通知書の申請手続き自体は家主が行う必要がある。当該物件は私の住居から遠隔地にあったため、メールでの調整と断続的な作業を経て、要件の確認からおよそ3ヶ月ほどで消防法令適合通知書を取得することができた。
駆けつけ業者の選定
開業届に記載する運営体制の中で最もネックになったのが、「緊急時におおよそ10分以内に駆けつけられる人の名前の提出」だった。駆けつけ体制の提出の粒度は自治体により異なると思うが、当該物件の所掌保健所の指示としては、以下が必要だった。
- 住所的に10分以内で駆けつけられること。同一自治体内が基本。
- 当該者の氏名、住所、連絡先を申請書に記載すること。
今回は物件所在地がオーナーである私の居住地から遠方だったこと、清掃のみ外注予定だが清掃委託業者は駆けつけまでは行っていなかったことから、近隣で頼れる個人を探そうとした。SNSで投げかけると意外にも近くに移住した人などが見つかった。しかし、「行政に提出する申請書に、何らかの責任を負う形で名前を記載する」となると難易度は格段に高かった。

↑知人から対応をお断りされた図
結論としては、地場の警備会社(アルソックみたいな)と駆けつけ警備を委託することで解決した。警備費用がランニング費として月額数千円かかる代わりに、堂々と駆けつけ対応体制に、同一自治体内にある警備会社事務所を記載できることになった。
水質汚濁防止法の対応
続いて行ったのは、水質汚濁防止法の対応である。簡易宿所は周囲の環境に対する対応が必要な物件であるため、排水等が周囲の環境に影響を及ぼさないことを示す必要がある。この所掌は地元の役所の環境対策課のような部署が担当となった。
これも担当官に個別に連絡し、必要な様式と記載方法のおおまかな内容を確認するところから始まった。当該物件の下水は、下水道ではなく個別消化槽となっているなどやや特徴的な点があったが、浄化槽の点検記録の参照やAIへの相談により、それほど負荷なく申請をすることができた。
予約管理システムの選定
今回の民泊物件は、遠隔からの不在でのチェックイン管理を設定している。これに伴い、遠隔でのチェックインが適切な方法とシステムで行われていることを開業届の添付書類として示す必要があった。
具体的には、①宿泊者の台帳管理、特に身分証明書の写しの管理、②チェックイン時の本人確認の2点が特に問われる点となった。これを満たす民泊用チェックインシステムを選定し、監視カメラなど必要機材を購入・設置し、現地査察に耐えられる仕組みを整えるところまでが開業届の提出以前に必要となった。
開業届の提出
ここまで来てようやく開業届の提出の準備が整うことになる。開業届自体の作成は、これまでの作業を行っていれば難しい事は無い。
最後に、一連のお役所書類の作成が、Microsoft Wordによる作業を前提としたものだったことも添えておきたい。私は個人ではMS Officeを有していないこと、職場用の環境に副業の書類を持ち込みづらいことから、案外ここは苦労した。Google docで作業するとどこかしらフォーマット崩れが発生するし。役所は住民のMS Office利用料を税金か何かだと思っているのかもしれない。
まとめ
物件購入からここまでおおよそ半年。当該物件の自宅からの近さや慣れによるが、工事を伴う場合やはり最低でも3ヶ月ぐらいはかかるのではないかと思う。
また費用としては、一連の消防法対応の設備設置に30万弱、開業届に貼る収入証紙代で2万4千円がかかった。
民泊の開業準備という観点では、今回記載した法令対応以外にも、
- 家具や備品の購入
- 清掃業者や警備会社の選定と契約
- 必要箇所のリフォーム
- 冬季に水漏れした配管の修理とパッキンの予防交換
- 確定申告における経費精算の考え方の整理
- 固定資産税の整理(居住実態のエビデンス提出)
など、やることはたくさんあった。
この一連の記録が、将来民泊を開業する誰かの参考になれば幸いである。