おとうのオートノミー

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ベンチャーを辞めた理由

私はここ4年で2社のベンチャーを退職した。いずれも在籍は2年ほどだった。この記事では、それがなぜなのか、二の轍を踏まないためにはどうしたら良いのか、を言語化してみる。

事実の振り返り

1社目は創業2〜3年目、若い創業者が率いるベンチャーの20人目の社員として入社した。ちょうど10億円弱ほどのシリーズA調達を完了させたところだった。そこから最初のプロダクトのリリースと、そのPMFの失敗を経験した。体制を立て直すため、最初のお客さんに製品をデリバリーしたところで退職した。

2社目は創業10年強の老舗。少人数・業務委託でいろいろな分野に手を出していたところ、とある分野の製品がPMFし、その製品を軸に急拡大している企業だった。入社時の社員数は60名ほどで、これから売上も人数も倍々で増やしていくというタイミングだった。こちらも同規模のシリーズB調達を完了させたところだった。2年間、新規パートナー・顧客の開拓や、新製品のリリース、製品出荷プロセスの改善など様々なことを経験した。その後、特定分野への注力に合わせた組織改編を行っているあたりで退職した。

退職理由の考察

会社としての成長(拡大)を目指したのに成長できなかった

いずれの会社も拡大を至上命題として掲げていたが、目標として掲げた売上を達成できなかった。数値目標及びその達成のための解像度は低く、目標として設定した上場日と、上場のために必要なバリエーションから逆算された売上目標を当てはめているだけに見えた。

PMFの判断が早すぎた

会社はCEOの器以上に成長できない。世の中には、非線形に拡大していくスタートアップを経営できる人もいれば、普通のビジネスを着実にこなすのが幸せな人もいる。

先述した1社目、2社目ともに不幸だったのは、CEOが中小企業の社長の器だったにもかかわらず、初期に多額の調達に成功してしまった(バリュエーションが過剰に評価された)がゆえに、一定規模の上場という出口が先行して決まってしまったことだった。

上場のためには一定の業績が必要となる。具体的な評価基準は時価総額だが、その根拠として主幹事証券会社などから売上・利益等も目標を課される。赤字上場のケースもあるが、一定の成長率などの根拠が必要だ。

規模の小さなスタートアップやベンチャー企業が一定の業績を残そうと思うと、最近のはやりとしては強い製品を育てることにある。ベンチャーはある程度まではピボットを繰り返すことが許容されるが、PMFしたと判断したあとはその限られたリソースをその製品を伸ばすことに注力することが求められる。

このPMFの判断が早すぎたために、市場性があまりない商材をプロモートするために会社のリソースをつぎ込んでしまい、ピボットもできず身動きが取れなくなった、というのが両者に共通した敗因だったように思う。

To Bの商材の場合、その市場性はその商材が対象とするビジネスプロセスの規模( = プロセスの範囲 x 市場規模)に依存する。対象とする業界出身の人が社内にいるなどして、最初からプロセスを広く理解していれば、カバーすべきプロセスを取り漏らすことがない。しかしそうでない場合、本来は「人事担当がその上ですべての業務を行うことができるSaaS」が求められているのに対し、例えば「勤怠管理をとてもスムーズに行うことができるが、それしか機能が無いSmartHR」のような、もったいない製品ができてしまう。この判断は、対象とする市場がエンジニア寄りなど、金融畑の人の理解が難しい市場であるほど難しい。

経営者によっては、いろいろと手を出した結果「大手企業に使ってもらった!PMFだ!」と功を焦る人もいる。このPMFの判断をいかに成長性高いものとできるのか、にCEOの器が現れる。

転職したほうが給与が上がった

ベンチャーの1社目は、入社面接時に「うちはバンバン給与上げる会社ですから」と言っていたが、2年間の在籍の中で昇給がなかった。2社目は在籍中に人事制度が整ってきて、昇給を含めた評価プロセスが実装された。ただしそれでも頑張って年に数%くらいの昇給だった。

一方、転職をすると1回で年収が100万円上がった。企業内の昇給には限度があるので、年収を上げるのであれば転職したほうが早かった。ある程度の年収(〜1,000万円/年とか)までは前職との比較で年収を引き上げられると思う。

同じ会社でも、年収が高いところからの出戻りの場合のほうが年収が上がる。以前、社内の状況が変わったと言うので、前に在籍した企業の話を再度聞いたことがあった。その企業に戻ることもかなり真剣に考えて条件交渉もやった結果、在職中は昇給がなかったその会社でも、戻る場合は100万円上がった現状の年収でも出すことができると言われた。

得られる経験に見切りをつけた

ベンチャーである以上リソースは限られるので、特定領域に特化して事業を展開していく。2年間いて、「業界的にも経験値的にも、数年後もいまと同じことをやっているな」と思ったときに、それ以上いる理由はなくなってしまった。

入社時に期待していたことが満たされないと辞めがち

こうして振り返ると、入社時に期待していたこと(事業の拡大、素晴らしいCEOと一緒に働く、給与が上がっていく、多様な経験を積む)が達成できないと感じた場合、2年で辞めてきたことがわかる。こうしてみるといずれも浅はかな理由であり、ベンチャー採用時にはヴィジョンへの共感が重要であるのは正しい。

一方で、会社の成長というのは会社の努力のみならず、その会社の製品がカバーできる市場規模にも依存する。果たして現状の製品が本当にPMFしているのか、狙っている市場に潜在的にどこまで広がりがあるのか、という点は、入社前にもう少し吟味したほうがより後悔しない選択につながると思う。