おとうのオートノミー

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読書ログ「果しなき流れの果に」他

「果しなき流れの果に」小松左京

ある古墳から「無限に砂が落ち続ける砂時計」が発掘された。しかもその砂時計が埋まっていたのは中生代の地層だった。この砂時計を手にした考古学者らは、宇宙の始まりから終わりまでの時間スケールでの戦いに巻き込まれていく…というお話。

傑作だった。これもテーマ的には「地球幼年期の終わり」「最終人類」などと同じ、人類と高次の存在が出てくる話でもあるが、超長い時間をタイムトラベルを繰り返しながら戦う、という点であまり似たストーリーを思いつかなかった。強いて言えば最近見た上田誠脚本のドラマ「時をかけるな、恋人たち」が近い。

「人類と高次の存在」については、幼年期の終わりを読んだ際にまとめた以下の要素が本書についても当てはまっている。本書では知性のレベルは「階梯(かいてい)」という言葉で定義される。

人類が個人として獲得できる知性には上限がある。宇宙には更に高次の知性を持つ存在がいる。それは個々の精神が他の個体の精神とリアルタイムに繋がり、広大なネットワークを構成する。 人類が高次の知性と接するための媒介となる存在が登場する(幼年期の終わりなら「上主」、最終人類なら「オブザーバー類」&「ネットワーク」)。

その存在による人類に対する働きかけは、人類からの見方によっては独善的であり、強制的に高次の存在に取り込もうとする。

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お話の要素としては時空を超えた戦いに主眼がある。本書は1965年に発表されたものだが、「世界線」という言葉が現代と同じ概念で使われている…と一度目に読んだときには思ったが、読み返しても見つけられなかった。仮に本書に出てきていたとすると、これまで「シュタインズ・ゲート」が世界線という言葉が広まったきっかけだと思っていたが、これが一気に50年ほど遡ることになる。

参考:「世界線」という言葉の語源は何か。なぜ使われるようになったのか。 | レファレンス協同データベース

本書の中では、元々の時間軸(Xt軸)から、ある事象をきっかけに無数に分岐する世界線(Yt軸上に展開されるパラレルワールド)を3次元座標系上に表現する、というような、より具体的な概念も登場する。

ストーリー構成も凝っている。古墳から発掘された砂時計の一件は、前半四分の一くらいで完結し、そのあとに「エピローグ(2)」を挟みつつ、時空をまたにかけた戦いの描写が始まってゆく。それでいて最後は「エピローグ(1)」による種明かしでホロリとさせる要素も盛り込みつつ、物語の主要な伏線はきれいに着地させていて、読後感は気持ちよかった。

ニューロマンサーウィリアム・ギブスン

サイバーパンクの傑作とのことで手にしたが、1986年初版発行の黒丸尚さん訳に乗れず挫折した。今であれば英語をそのままカタカナ語として表記しても意味の通る言葉も多いので、無理やり漢字 + ルビで解決しようとした本書よりより良い訳が出てくることを期待。いや本書の難しさは訳だけではないんだろうけど、だからこそせめて良訳に期待。

火星年代記レイ・ブラッドベリ

人類による火星移住前後の様々なできごとを、記載した本。文庫本サイズの厚さだが、本書全体を通じたストーリーはほとんどなく、ほぼ全てがショートショート的文量の各章で完結する。

非常にとりとめのない本だった。2010年初版の[新版]には、冒頭に著者による回顧記も乗っており、そこから本書は著者にとっても実験であったことがうかがえる。

遠くの故郷のできごととして描かれる地球の描写が、本書の後に発行される「華氏451」の世界観にもつながる。